23話 HELLJAIL
レガリア・コア。それはこの地に流れるインフィニティ―フォース、∞の力をエネルギーへと変換する巨大な窯。
この都市国家ヘルジャイルの全システムを支えるその窯は、今や都市全土を覆う”終幕”を降ろさんとしていた。
◇
夜風吹きすさぶ塔の頂上、屋上庭園でシラヌイ達はレガリア・コアの前に立っていた。
窯は蒼い光をまといながら熱を放つ。周囲の空気が熱に揺らぐ。
鳴り続ける地響き。
それは今にも爆発しそうであった。
ゴゴゴゴゴゴゴ…
レガリア・コアの操作盤をエリヤは操作する。その後ろでイッセンは表示されるホログラムのウィンドウを見て首を捻った。
「このままやとおよそ半径20キロが爆心地になる、都市は真ん中からぽっかりと!その約半分を失う!!」
「させませんとも」
「エリヤ。出来るのか」
シラヌイは問う。エリヤはホログラムを見つめたまま答えた。
「ええ、勿論。阻止してみせます。皆さん避難してください」
「それは無しだぜエリヤ」
アルバが静かに口を開く。そして明るく言った。
「俺の監督役が居なきゃ、俺はまた何するかわかんねえぜ?」
「…ふふ、それもそう、ですね」
エリヤは眉を下げて笑って見せた。その隣でイッセンは少し悩む様子で言った。
「出来るかはわからへんけど、試してみる価値はありそうやな」
「…?何か手段があるのですか?」
ほい、とイッセンはエリヤにマイクロチップのようなものを渡した。
「これは?」
「ローズブレインがインフィニティフォースと繋がったときの為に、オレが造ったモンや。作った理由は省くけど、このマイクロチップはレガリア・コアを停止させる効果がある、一時的やけど」
「良かった!ではこれを使えば暴発を止められるんですか!」
思わず瞳を輝かせ、ルチアは歓喜の声を上げる。
「…」
イッセンは少し沈黙した後にっこり笑って頷いた。
「じゃ、そういうことやからここは任せたで!いくでシャルル!」
突然振られ、シャルルは目を丸くする。
「な、まてよ!マジで置いてくのか!?」
「何があるかわからへん!塔の中におる人はどうする。避難誘導は誰がするんや?」
「…!そう、だな!!」
こくりとシャルルは頷く。その様子にムラサメはうんうんと同様に頷いていた。
「たのんだよイッセン。ニラヤカナヤの英知をみせてくれ」
「いやいや、あんさんもやで旦那。その体で何ができる?——よいしょっと」
「え?——お、おい!」
つかつかとイッセンはムラサメに歩み寄るとその腰を抱え担ぎ上げた。抵抗しようにもムラサメに力は残っておらず、されるがままである。
「そのクソエリートスカシのこと頼むぜ」
ニタニタと人を小馬鹿にしたような笑みでアルバは手を振る。ムラサメは観念したようにだらりと長い体を垂らせた。ため息が零れる。
「はあ…いい年して担がれるとはな。とほほ」
「そんじゃま、頼みましたで!!」
びし!と敬礼してイッセンがその場を後にしようと足を踏み出す。と、その隣にいたシャルルが駆け寄ってくる。
「ルチア!」
「えっ?」
思わず驚くルチア。名前を呼ばれたのは初めてだった。
呆然としていたルチア、すぐさまその頭がはたかれる。
「聞いてんのか!」
「あ、いた!?はいっ!なんでしょう!?」
「…」
シャルルは気まずそうに目を伏せる。そして少しの沈黙の後、小さく呟いた。
「い、いままで。悪かったな。その…ッぜってーそのアホ面下げて、帰って来いよ」
「…!」
思わず顔が輝く。俯いたままのシャルルに解らないようルチアは一息つくと、真剣な眼差しで答えた。
「ええ。勿論ですシャルル。…ありがとう」
返事はない。
シャルルはその言葉を聞くと、イッセンの下へ戻った。
「僕も、行くよ」
駆けてゆくシャルルとイッセンの背を見つめながらグロウルも口を開く。
「うん、気を付けてね」
ルチアはほほ笑む。後ろに立つシラヌイもまた、同じだった。
「待ってるからね。ルチア、シラヌイ」
「勿論だ!」「勿論です!」
「心配すんな、大丈夫さ」
返事をするシラヌイとルチア。その後に続いてアルバもまた笑った。
くすり、グロウルは口元に手を当て幽かに笑う。
そうしてくるりとターンをすると満面の笑みを浮かべ、一言告げる。
「ふふ、アルバに言われなくたって!わかってるよーだっ!」
そういうと、グロウルもまたイッセンらの消えた方へ屋上庭園を後にした。
「あいつ…、言うようになったじゃねえか…」
苦笑いするアルバ。その傍らでシラヌイは真剣な瞳でレガリア・コアを見つめた。
「さあ、最後の仕事だ。付き合ってくれるな?」
「ええ」「おうさ」
「———はい!」
シラヌイの言葉に各々が頷く。が、ルチアはすぐさまへろりと背中を丸めて頬をかいた。
「…と、胸張って返事したものの、話が見えないのですが…えっと私はどうすれば!?」
「エリヤ、どうだ?」
「今、イッセンから渡されたマイクロチップをインストールしています」
ボォン!!
「「!」」
柱が小爆発を起こす。一同は身構えた。アルバは叫ぶ。
「お、おいどうなってる!?なんか、あんま状態芳しくなさそうだぜ!」
ヴン、とホログラムがエリヤの目前に表示される。
夥しいほどの文字の羅列。
赤いウィンドウに、マシンについて詳しくないシラヌイにも何が起きているのかは理解できた。
「エラー…!?」
「んだと!?」
冷汗を流しながらエリヤは苦笑いをした。
「は、はは…イッセン…。確かに止めると言っていましたが…これはウイルスだ!この装置のシステムを滅茶苦茶にするための!”壊して”止めると、そういうことですか!」
「はああ!?なんだそれ!!」
「臨界点到達まで、~~およそ…120秒です!」
「間に、あわない…?」
ルチアは思わず息をのむ。
シラヌイは表情を硬くした。
「…どうすれば、いい」
アルバは唇を噛んだ。
「嘘だって言えよ、まだ、何かあんだろ!」
ルチアは拳を握りしめた。
「こんなところで…何か、ある、はず…そう、ですよね…!?」
「はい」
静かな声。三人はエリヤを見る。
エリヤは息を吐く。そして深く息を吸った。
目を開く、そして操作盤に手を付けた。
ホログラムのウィンドウ、その文字列が忙しなく変動する。エリヤは目にもとまらぬ速さで操作盤を操作していた。
「ま、まさか…だ、だめです!」
はっとしたようにルチアが声を上げる。
「レガリア・コアと競争するなんて!相手はマシンですよ!?どうかしてます!!!」
「どういう、ことだ…?」
シラヌイは訝し気にエリヤに問いかける。エリヤは背を向けたまま答えた。
その頬には冷汗。しかし表情は不敵に笑っていた。
「レガリア・コアの暴発を止めるには炉心である石板を破壊する必要がある。ですが今この状態で破壊してしまえば真っすぐ都市壊滅に繋がるでしょう。一瞬でもいい、システムと炉心を断つ、停止させる必要がある。だがこんなシステム流石に扱えません―――だったら”上書き”してやればいい」
「はああ…なるほどイッセンの野郎、そういう事か…試しやがって」
アルバがため息をつく、そして頭をかいて言った。
「今、イッセンのウイルスによってシステムが滅茶苦茶<エラー>を起こしてる。システムちゃんがウイルスに躍起になって、その演算速度は疲れて重たくなってるはずだ。そう、むしろ好都合なのさ!」
「いいえ、いくら本システムが遅緩していても、相手はマシンですよ!?書き換えても、秒単位で新しく上書きされます!延々とマシンと競い合うつもりですか!?それでは脳が焼ききれます!!」
「今は、そんなことも言ってられないでしょう?」
「…!」
ルチアは見た。エリヤの顔はいつになく真剣で、鬼気迫る表情をしていた。
「ここで、私が頑張らなくてどうするというのです」
操作盤を操るその手は止まらない。
目まぐるしく変わるウィンドウ。
つ、とエリヤの裂けた額から頬へ血が伝った。
ごくりと一同は固唾を飲む。
エリヤは眉を寄せ、不敵な笑みをして言った。
「ここは私のターン。炉心の破壊が可能なタイミングは私が言います。その一瞬でカタをつけてください!!いいですね?返事はッ!!」
「———了解した!!刹那のうちに圧し斬るのみ!!」
「シラヌイ!?」
シラヌイはそう言って瞬く間に抜刀した。
ルチアは驚愕したがアルバの視線にはっと息をのむ。アルバは静かに頷いていた。
エリヤは目が回りそうになるのを堪え、指を動かしていた。
(イッセンのウイルスが演算速度を落としている今!ウイルスがはじき出されるまでのこの一瞬にかかっている!)
「Xシステム、解析」
(頭がカンカンだ!追いつけ、追いつけ!解いて見せろ!エリヤ!!)
「IF回路、再構築」
(彼らが繋いだものを、ここで断ってはいけない)
「今度こそ、本当の意味で、皆の力に」
エリヤは目を細める。胸にかかった銀の二枚の認識票<ドッグタグ>が煌めいた。
—————その刹那、ホログラムの文字列が赤から緑に代わり、停止する。
(捕 ま え た ぞ ッ!)
「今です―――――シラヌイッ!!」
ドンッ!!
シラヌイは爆風をまき散らし地面を蹴る。
装置の上空に影が浮かび上がる。
一瞬の滞空、空に煌めく黒い刀身。
瞬きをした刹那。
シラヌイは既に着地していた。
「————————————<抜刀術・神速>」
シラヌイがそう静かに呟いた時、見上げるほどの巨大な石板はずるりと傾き
それは音を立て崩れ、両断されていた。
息を吐きながら、エリヤは”巨大な影を落とす”上空の物体を見る。
「エネルギー安定。臨界点、集束、しまし、た…!」
が、しかし。
ほっとしたのもつかの間。
上空を見つめる一同の顔色が青ざめて行く。
ルチアはわなわなと口を開いた。
巨大な影、シラヌイの両断した炉心であった石板は
――――ゆっくりと一同へ、倒れようとしていた。
「このままじゃ」
「俺らペシャンコじゃねえかァ―————————!?!?!?!」
アルバが叫ぶ。
その言葉通り。下腹部で折れた柱は、凶悪な殺意と圧力をもってゆっくりと一同の立つ屋上庭園へ傾いてきている。
「ばっかシラヌイてめえ!何してくれてんだ!!」
「殴れ」
「は?なんですと?」
シラヌイの言葉にアルバは目を丸くして聞き返した。
「これを塔の目下に落とせば被害は甚大、ここで処理するッ!」
「ぇぇぇえええああ!?!?」
「ッそ、ういうことかよッ!」
ルチアとアルバは驚愕する。エリヤは思わずころころと笑った。
苦笑いをしてひくつく二人にシラヌイは言った。
とびっきりの、不敵な笑みで。
「できるだろ?
瓦礫一つ残すな―————―—ぶん殴れ!!!!!!」
ドン!
二人は床を踏みしめる。
気迫と共に風が舞った。
視線の先、上空には迫りくる壁の様な石板。
冷汗を流しながらも、二人は拳を握りしめた。
「あいかわらずお前はぶっ飛んでるよ!!!」
「はぁあ~滅茶苦茶だ―——————————!!!!!!
二人がそう叫んだのを合図に、巨大な影を落とし、柱は一同に向けドッと落下した。
「~~~~銃弾に限りはあれどッ!この拳は想いの数だけ撃ちだせるッ!そうですよね!アルバ!!」
「ああ、やるぜルチアちゃんよお!!100%、いや1000%出してやろうじゃねえか!!」
「はいッ!!」
(——限界だ、目がかすむ)
エリヤは酸素の回っていない頭を起こす。シラヌイと視線が交わった。
「よくやった。あとは俺たちを信じろ」
「ええ、勿論ですとも」
エリヤはそう言って、ほほ笑んだ。
「これで、終いだ。アルバ、ルチア!」
「ああ!」「はい!」
すう、とシラヌイは息を吸う。
そして声を張り上げた。
「ぶちかませええッ!!」
二人は拳を構える。
目前の脅威目掛けて、二人は目にもとまらぬ速さで拳を撃ち放った。
「「だああああああああああああああああああああ!!!!」」
残像すら見える拳の連打、そこに閃く剣線。
塔を押しつぶさんとした巨大な影は、衝撃の雨に幾重も亀裂を走らせていった。
コン
瓦礫の山の上に、砕かれた最後の残骸が落ちる。
拳を振りかぶったままのルチアは、肩で息をしながら呆然と呟いた。
「っはぁ、はぁ…終わっ、た…?」
アルバは瓦礫の山に崩れるように座り込む。シラヌイは振りかぶったルチアの拳を降ろして言った。
「…そのようだ、な」
シラヌイは刀を鞘に戻す。
その音を皮切に、ルチアは両手を上げて叫んだ。
「やった―————————————————————————!!!」
バタン
両手を盛大に”万歳”したまま、糸が切れたようにルチアは背中から倒れ込んだ。
「ルチア―———!」
げっそりとした顔でアルバが叫んだ。ルチアは倒れたまま嬉々として声を上げた。
「はは、やった。やりましたよ、やりましたよ!!!!」
その声に、シラヌイも息を吐く。
「…ああ。ルチア。終わったぞ」
「ほんとか!?ほんとに終わったんだろうな!?エリヤ!今どうなってる!?」
「ばっちしです!もうどこにも異常はありません。ふふ…大丈夫ですよ」
エリヤの言葉にルチアはがばりと身を起こす。
「ほんとに、ほんとに、闘いは、」
「はい、終わったんです」
微笑むエリヤ。ルチアはほっと胸を撫でおろし、脱力した。
シラヌイが手を差し出す。
「よく、やってくれた」
「はい…!…っ」
思わず視界が滲む。
ルチアはぐっと堪えた。
「どうした?」
「ふふ、なんでもっ!」
そう言ってほほ笑むと、ルチアはその手をとり、立ち上がった。
「うむうむ。よくやったぞ若人達よ~~!」
その時、聞きなれた声がした。
「な」
「ん」
アルバとルチアが硬直する。
まさか。
そう思い、ギクシャクと体を軋ませながら一同は振り向き――――――驚愕に目を見開いた。
「クジョー博士、華麗に推参じゃあ!!!!!!!!」
「「えええええ――————―—!?!?!」」
どじゃーんと効果音が聞こえてきそうなほど飛び上がって驚愕するルチアとアルバ。そこに立っていたのは見間違えようのない、クジョー本人だった。
一同の反応に、クジョーは満足げにニッカリと笑った。
「なはは!!なんじゃおまえら幽霊でもみたような反応しおって」
「お、ま、え死んだんじゃ」
「指をさすなアルバ。——馬鹿め!!私が死ぬとでも思ったか!!!死なぬわ!ラルゴもフォーガンも無事じゃ!!みな下におる!っていうかさっき皆でぼおん大技撃った時に私ら居たじゃろ」
「た、確かにそうですね!」
そういえば!とアルバとルチアは顔をあわせる。シラヌイは呆気にとられたように頭を掻いた。
「てっきり幻影的な何かかと思っていたぞ」
「そんなファンタズィーなことあるか!チャキチャキに生きとるわ!」
「でもッ、クジョー腕吹き飛んでたじゃないですか!!」
「あれはネクロを油断させる為に細工しただけ!ほれこの通り!」
ずるり、緑のジャケットの袖口からクジョーの細い腕がのびる。びっ、とクジョーはその手でピースをした。
「腕はニョッキリじゃ!!騙されたな愚か者め!!」
「〜〜〜〜〜〜このッッッッ!!!」
すると、先まで静かだったエリヤはつかつかとクジョーに歩み寄る。そしてその胸ぐらに手を伸ばし
——小柄な体を引き寄せ、膝をつき抱きしめた。
「…っよかった、生きてる」
エリヤの声が震える。その背からは表情は見えない。
クジョーは抱きしめられたまま快活に笑った。
「なははははは!!泣くほど嬉しいか!!!!…ったく、お前は心配のしすぎじゃ」
「はぁあ~~~~~んだよ~~~~」
のし、ルチアの肩にアルバが寄りかかる。突然の重さにルチアは顔をしかめた。
「ちょっと、重たいんですけど。私も疲労困憊なんです。もたれないでください」
「疲れた、なんかもうすごく疲れた。なあ?シラヌイ」
「ん?」
ふいに声をかけられ、シラヌイははっと我に返る。そして、すぐに顔を綻ばせた。
「はは、そうか?俺はまだまだいけるぞ」
と、告げた所でシラヌイはばたりと倒れた。
「倒れた―———―—!?」
ギャンとアルバが叫ぶ。ルチアは慌てて膝をつき、顔を覗き込んだ。
その顔はつき物が落ちたような、晴れ晴れとした顔をしていた。
思わず澄んだ金色の瞳に魅入られる。
「あっはははははは!!見ろ!!夜明けだ!!空がよく見える」
シラヌイのその声に一同は空を見上げた。
ずっと暗い夜の中戦っていた気がする。だが、いつのまにか、見上げたそこには赤い朝焼けが広がっていた。
塔の頂上、屋上庭園。
遥か高いそこから見る景色は都市の何処までも見渡せそうだった。
一同はそれぞれ、空の向こうを見つめた。
吹き抜ける風が心地よい。
シラヌイは仰向けに寝転がったまま、陽の眩しさに目を細めた。
そして聞こえるか聞こえないか、わからないほどの小さな声で一人呟いた。
「あいつは、きっとこういう景色を…」
泥の様な眠気がシラヌイを襲う。
「ふふ、お疲れのようですね。では…帰りましょうか」
ルチアの声が聞こえた気がする。
だがそれも遠く。
穏やかな風に髪がさらわれるのを感じながら
シラヌイは次第に力を失っていく体に身をゆだね静かに瞼を閉じる。
もうずいぶん、ずっと戦っていた気がする。
ぽたりと”雨”が降った。人知れず雫が頬を伝う。
シラヌイはふっと微笑み、”そう”————思うことにした。
◇
―――――数日後。
「…」
「…」
「うう~~~~!!」
半壊したヴァンガード本部。
今は修復され突貫故に歪なその門の前でルチアは唸っていた。アルバはしびれを切らしたように地団太を鳴らしていた。
「アルバ、行儀が悪いですよ」
「ンなこと言ったってよお!?どれだけ待ったと思ってる!?そろそろ…」
「またせたな」
「「はっ、シラヌイ!!」」
ルチアとアルバは振り返る。門の向こうから、エリヤとシラヌイが現れた。
二人は駆け寄る。アルバはエリヤに問うた。
「どうなった?エリヤ」
エリヤはぐっとサムアップする。そしてにっこり笑って言った。
「はい!ばっちしです!ムラサメ君が軍に戻って色々手を回してくれたおかげでシラヌイは免罪!ヴァンガードもなんとか持ち直し、指名手配書も取り下げてくれるそうです!」
「よ、よかった~~~~~!!!」
どっとルチアが脱力する。シラヌイは思わず笑いこぼした。
「ああ、心配かけたな。もう大丈夫だ」
「チッ。クソエリートに借りを作るのはいい気はしねえが利用するに越したことはねえ…。気にしてない、気にしねえぞ俺は…つうかいつのまにそんな…ぶつぶつ」
唐突に表情を曇らせしかめっ面をするアルバに、やれやれとルチアは息を吐いた。
「またそんなこと言って…。あ、そうだシャルルやラルゴ、イッセン、グロウルの処置は…!?」
ルチアは再び体を強張らせる。エリヤは宥めるように穏やかな声色で答えた。
「身柄は拘束されていますが、いつか出てはこられるでしょう」
「ほんとですか!?」
身を乗り出すルチア。それに応えるようにシラヌイは頷いた。
「ムラサメが手を尽くしている。大丈夫だ」
「ええ。それに彼女たちはグロウルの<制御解除>にかかっていた。そしてそのグロウルもゼノブレイン?に従わされていたんだ。しかも洗脳してね!そこをつけば罪を軽くできる。ムラサメ君ならやるでしょう」
「かァ~~~~~~!!」
「そこ!逐一突っかからない!」
ずびし、とルチアの手刀がアルバの脇腹に刺さる。
やれやれとエリヤは肩をすくめた。
「彼なら元々都市軍で名が知られていたこともあって、顔がききますからね」
「ルチア、お前はヴァンガードに戻らなくてよかったのか?諸々の事は全部釈明されているが」
「はえ?」
アルバと小競り合いをしていたルチアは素っ頓狂な声を出す。わっと体裁を取り直すと、少し気恥しそうにせき払いした。
「い、いいんです。ヴァンガードでなくとも私が騎士であることは変わりありません。それにっ!私たちレジスタンスにも、まだまだやるべきことは沢山ありますから!」
にっとルチアが笑う。
「ふふ、それもそうですね!」
エリヤがそう言った。
その時。
ドッカァァァン!!
強烈な爆発音が聞こえた。アルバは渋い顔をする。
「うーんこれは嫌な予感」
すると、そこに通信機が鳴った。
『うむ!クジョー博士じゃ!』
通信機は教会——レジスタンス本部に居るクジョーと繋がっていた。シラヌイは騒がしい方向を見つめながら問いかける。
「クジョー。この騒ぎは?」
『お察しの通り、今回もゼノブレイン思想の残党が騒ぎの原因じゃ!制圧に迎え!以上!』
「ちょっと待ちなさい早い早い」
エリヤの制止の声に、通信機の向こうがガタンガタンと鳴る。音が止んだ後、次に出たのはフォーガンだった。
『かたじけないエリヤ。~~クジョー!まだ伝えることがあるでしょう!』
『あ~?そんなもん大体見たらわかるじゃろ』
「ぅえ?」
『お前たちの後方!まあーっすぐそっちに向かって居る!!敵はオートマトン複数!気張れよおっ!じゃあの!』
『クジョ————!!!』
ぶつん
「っっっっったく、あいつは…!!」
わなわなと震えるアルバ。通信機はフォーガンの悲痛な声を最後に静まり返る。エリヤはころころと笑った。
「はは、相変わらずですね!」
そうして一同は後ろを振り返った。
ふり返ったその地点に何かが飛来する。
激しい音と爆風。地面にクレーターをつくり落下してきた何か。
土煙は晴れて良き
「うわ!勢揃いだ!」
そこには複数隊のオートマトンが立っていた。
それらは明確な殺意を持ってシラヌイらの前に立ちはだかる。
「ああ、確かに見ればわかるな」
「ほんと、いつもこの調子なんですから〜〜!!っルチア、いつでもいけます!!」
ルチアは新調したグローブを装備した拳を握りしめる。エリヤも肩を鳴らしながら一歩踏みしめた。
「よおし、じゃあ私も人肌脱ぎますかね〜!」
「ふざけんな下がってろ!クソエリートより役に立つってのみせてやる!!」
「ああ…はい」
慌ててエリヤを背後に回すアルバ。思わずエリヤはしょんぼりと肩を落とした。
一方シラヌイは刀に手をかけ、いつでも抜刀できるといった風であった。
その瞳は爛々ときらめいている。
「はは、拘置所にいたからな。丁度いい。体を動かしたいと思っていたところだ!」
「敵は複数!ですがまあ相手は機械です!存分におやりなさい!!」
後方でエリヤが一同に声をかける。
三人は三様にうなずくと視線を交わしあった。
「あいよお!」
「はい!」
「———ああ!!」
シラヌイはそう叫ぶと地面を蹴る。
その瞳に光を宿して。
握るのは父の形見。
黒い刀身、黒鉛刃(こくえんじん)を抜刀する。
それは風を、音を、鉄を斬り続ける。
生きている。魂のままに。
「いくぞ―———―—戦闘、開始する!!!」
<都市国家ヘルジャイル>
喧噪は絶えず—————続く。
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