22話 無限SPIRITBLAZE
そこは白い部屋。
擦り切れる日々の中の、ほんの少しの穏やかな時間。
いつもの変わらない笑みで、ローズブレインは血を吐いて言った。
「これが、最期の対話になる」
「…ブレイン…?どうした、様子がおかしい。出血多量。怪我か?ならば即刻、治療室へ行くべきである」
<友達>の言葉にブレインは沈黙で答えた。
笑顔のまま、操作盤を操作する。
「…!何だ…?スリープ…?どう、して」
「君には、知らない世界が、たくさんある」
「ブレイン、今日は話を、しない、のか」
「だから、こんな狭い部屋に閉じこもっていては、駄目なんだ」
「まて、ブレイン…。お前は」
——わるいね!シラヌイ。君の成長をこの目で見れないのは残念だがかまわない。こうして最後にまた会えたんだ
——私の唯一の最後のささやかな願いだ。私が私でなくなる前に、どうか私の事を■してくれ
——さよなら、私のたった一人の友達
君は、この勝手ばかりの人間達の事。どう思う?
◇
「行きます!アルバ!グロウル!頼みました!エリヤ!」
「ああ!」「うん!」「ええ!」
ルチアの声と同時にそれぞれが頷く。
そうして真っすぐに前方を見つめた。
そこには血だらけで真っ赤に染まった、虚ろな瞳を爛々と光らせたシラヌイが立っていた。
拳を握りしめる。夜風がルチアの前髪を煽る。
カッと目を見開き、ルチアは叫んだ。
「差し伸べられたあの手を今も覚えているッ!!だから私があなたを助ける。開放する!!———戦闘、開始します!!」
刹那の光線。
破壊的な斬撃波。シラヌイの刀身は風を、床を、音を斬った。
それに薙ぎ払われるルチアとアルバ。
「ッはあああああ!!」
一進一退の攻防。圧倒的な力に二人は成すすべもない。
ひと際大きい斬撃波にルチアの体が吹き飛ぶ。
咄嗟にアルバは走り、その体を受け止めた。
「ルチア!」
「ッ大丈夫!ちっとも痛くありません!あの人の苦しみに比べればぁあッ」
(まだ、まだだ。立って、私の足。動いて!!)
足がすくむ。
体力は限界だった。ルチアは防御する術を持たない。滝の様な汗を流し視界は霞んでいた。
「!」
と、その瞬間。
目前にはシラヌイが迫っていた。突如目の前まで間合いを詰めていたシラヌイ。彼は凄まじい勢いで刀を突いた。
「ッのおおおおお!!」
すんでの所でルチアを抱えたままアルバがその切っ先を受け流す。が、衝撃を殺す事は叶わない。アルバのナックルに亀裂が走った。
「っアルバ!!!」
アルバはルチアを突き飛ばすと、衝撃を受け一直線に後方へふき飛んだ。
ルチアは思わず振り返る。数回バウンドして、アルバはぐったりと床に転がった。
そのルチアの背筋が凍る。
はっと前を向くと、シラヌイが居た。
「———ぅぐ」
手が伸びる。
シラヌイの指はルチアの首に回っていた。そして恐ろしい力でルチアの首が絞め上げられた。
「障害は、排除する」
虚ろな瞳がルチアを刺す。
ルチアは次第に苦しくなり、熱くなる頭に顔を歪めた。
「ぁ、う。目を、覚まし、て、」
ミシリ、骨が軋む
「そうじゃない、はずだ」
苦しい。
それでも、ルチアは目を見開いて叫んだ。
「あなたの力は、誰かを傷つけるために、あるんじゃ、ない。ブレインがあなたにかける望みはッ破壊じゃない!!そうでしょう。シラヌイ!」
ぴくり、シラヌイの眉が動く。
「…!シラヌイ!」
(意識が戻って…?)
ルチアは思わず顔を綻ばせる。
が、それも一瞬の事。その表情はすぐさま苦痛に歪んだ。
「ッ!」
足が浮く。
ルチアの首を絞めつける指に力が増す。
シラヌイは何も映さない瞳で呟いた。
「いいや、それが、それが、俺の役割だ」
————キン
その時。
ルチアの目前に刃が煌めいた。
「——————————」
スローモーションに、シラヌイもルチアと同様に驚いたように目を見開く。
シラヌイの腕が”落ち”る、そう思った寸前。シラヌイは勢いよく床を蹴りルチアを離した。
ドッガアァン!!
衝撃波による爆風が巻き起こった。
時間を取り戻した世界に、それは飛来した。
シラヌイとルチアを引き離すように床に突き立ったそれは一本の槍。
爆風に吹き飛ばされるようにしてルチアはしりもちをつく。
そして目を丸くして顔を上げた。
「げほっかはっ。ッ
————ムラサメ、さん」
そこには、黒髪をなびかせるムラサメの姿があった。
「どうも」
ムラサメはそう言うとルチアにウインクして見せる。そしてすぐさま眉を寄せ真剣な表情で声を上げた。
「さあ、そこで寝てないで仕事をするんだなアルバ!!」
「言われ、なくたってええええええッ!」
ルチアの横を風が駆け抜ける。見れば、アルバは真っすぐにシラヌイの背後に滑り込んでいた。そして動きを封じるべく組み付いた。
「グロウルッ!今だ!」
「うんッ!!」
アルバの声にグロウルは髪を蒼く輝かせる。そしてそれは矢のようにシラヌイ目掛け勢いよく伸びた。
「!」
シラヌイの胸に蒼い髪が突き刺さる。
「————はああ!!」
グロウルは頬の亀裂を深くさせながら祈りを込めて叫んだ。
「<制御設定(リミットロック)>!!」
眩い閃光が辺りを照らす。
「——————————」
シラヌイの目が見開かれてゆく。
ルチアは手を、伸ばして
——————屋上庭園は蒼い光に包まれた。
◆
「ここは…」
シラヌイは瞼を開ける。
開けた視界。そこは見渡す限りの黒い世界だった。
足元を見る、塗りつぶしたような黒の中で影は存在するはずもなく。
見渡す限りの闇に声が聞こえた。
———あの時殺してやれば、こんなことにはならなかった
———あいつの”助け”を聞いてやれなかった
———あいつの嘆きに気づかなかった、何もしてやれなかった
———————おまえの、せいだ
シラヌイはゆっくりと振り向く。
そこには”誰か”が居た。
「だから、破壊する。お前もあいつも」
”誰か”は静かに告げる。シラヌイは目を細めた。
「…ああ、そうだ」
「ブレインは死を望んでいた。ならば果たさなければ。叶えなければ。お前はブレインの為に造られたのだ。ならばこれこそが使命」
「そう、なんだろう」
「何かを守るには何かを斬り捨てる必要がある。全ての幸福は叶わない」
「そう思うよ」
「お前は”余計なもの”を知りすぎた。”余計なもの”に惑わされ計算を違えるジャンク。おまえという側面は、ここで削除<デリート>が相応しい」
ゴポリ
シラヌイの口から赤い鮮血が溢れる。が、彼は表情一つ変えなかった。
——こんなに愛しく思いはじめるなんて
考えもしなかった
気が付くと、全身が真っ赤に染まっていた。
目の前の”誰か”がシラヌイに歩み寄る。
黒い刀身がシラヌイにつきつけられる。
——いつのまにか知らないものに溢れていて
自分の知らない自分が恐ろしく
「死ぬがいい、シラヌイ」
——どうして
そう言うと
——もう届かないとわかっているのに。今になって、願ってしまう
”シラヌイ”は両目から赤い血を流しながらシラヌイに刃を突き立てた。
——父さんにもう一度会いたかっただなんて
が、その刀は空を突いていた。
”シラヌイ”は目を丸くした。
「俺たちは殺しあってはいけない。そうだろ、シラヌイ=ザン=サオトメ
…ブレインが最後に願った望み。今の俺ならば、解るんだ」
———わるいね!シラヌイ。君の成長をこの目で見れないのは残念だがかまわない。こうして最後にまた会えたんだ
———私の唯一の最後のささやかな願いだ。私が私でなくなる前に、どうか私の事を忘れてくれ
————————君は、君の人生を生きて
———さよなら、私のたった一人の友達
「君は、この勝手ばかりの人間達の事。どう思う?私はね、それでも信じていたいんだ」
「——自由であれ、幸福であれ!!ブレインはそう願った。なら、俺はどんなお前をも受け入れる。失うわけにはいかない!!心が無ければ美しいものを美しいと思えない。愛する者に愛していると伝えられない!そんなのは御免だ。だから帰らせてもらう。今の俺の幸福、あいつらの笑顔を守る為に!俺は全ての可能性を、諦めるわけにはいかないんだ!!!!」
シラヌイは叫ぶ。
そして”自分自身”の手を取り抱きしめた。
”それ”は少し驚いたような顔をするとふと瞼を閉じる。
見渡す限りの黒の世界。
一筋の声が聞こえた。
「忘れてやるものか。どんな形であれ、過去は今を造る思い出だ。…帰ろう、あいつらの元へ」
シラヌイは口の端を上げて笑った。
そうして彼らは声を辿るように足を踏み出した。
視界は白く、染まった。
「シラヌイ――————―———ッ!!!」
世界が明転する。
目の前にあったものを抱きしめて、シラヌイは背後から勢いよく床に倒れた。
驚く皆の顔、真正面に広がる夜空。そこは先の屋上庭園。
そして視界の中心には、目を丸くしているルチアの顔があった。
「聞こえた。届いたぞ、お前の声が!」
シラヌイは笑っていた。その声色は、晴れ晴れと、澄んでいた。
「シラヌイ、」
「帰ってきた。俺は、ここに!帰ってきたぞ!!」ルチア!!
それは満面の笑み。
シラヌイは床に寝ながら、一緒に倒れ、自身の上にのっていたルチアを思いきり抱き寄せた。
「———~~~ッ!シラぬい…」
強い抱擁。腕の中で感じるシラヌイの体温に思いがこみ上げる。
聞こえる心臓の音、それは確かに鼓動を鳴らしていた。
ルチアは涙を堪えながら口を開き
「のボケ―——―—————————!!!」
アルバの大声にそれはかき消された。
「おおう」
「心配したじゃねーかよ!!!バーカこのオタンコナス!!」
「ううん、その粗雑な暴言。相変わらずだなあ」
カンカンに湯気だちながら怒りを露にするアルバ。その後ろでムラサメは腕を組んで朗らかに笑っていた。
「…お前たちまで」
見ればムラサメの傍らにはイッセンとシャルルが立っていた。
ムラサメは今にも倒れそうと言った様子でイッセンに支えられている。
「何だ何だ?知らない間に勢ぞろいだな」
一同それぞれにボロボロであった。
シラヌイはルチアと共に身を起こすと嬉々とした瞳でムラサメたちを見た。
「ムラサメ…来てくれたのか」
「当り前さ。僕のシラヌイがピンチと聞いて駆け付けたよ」
ムラサメはニヒルな笑みを浮かべる。シラヌイもつられて小さく笑った。
「ははっ、そうか。…しかし体は大丈夫なのか?」
「言ったろ?僕は不死身なのさ。げふう」
ムラサメはにこりとほほ笑むとそのまま顔色を青くして吐血した。
びしゃり
「ぎゃあ!ムラサメの旦那!!俺の服が———!!!」
「ちょっと!?全然大丈夫そうじゃないですけど!?」
ルチアがぎゃあと叫ぶ。イッセンは涙目になりながらも体のバランスを崩すムラサメを支える。
アルバは訝し気にイッセンに問いかけた。
「ってかイッセン、お前ら何しに来た」
「あ、それ兄サンが言います?いや、なんちゅーか。まあ…気が、かわったんですわ。ほんとに、何できてしもたのか…」
「あ、アタシも…。その、もにょもにょ」
口ごもる二人。アルバはしたり顔で頷いた。
「そうか。…はは。だよなあ…。わかるぜ」
ルチアも嬉しそうにそれに続く。
「うんうん」
「うるっせえトサカ頭!!」「したり顔腹立つわぁ―——―—!!」
「んだとう!?」「ええ―—!?」
唐突に騒がしくなった屋上庭園。シラヌイは嬉しそうに笑った。
「ああ、そうだ。これだ。これが見たかった」
と、そこにレガリア・コアを調べていたエリヤが口を開く。
「はいはいそこまで!!仲間が増えてうれしいですねっ!!そら、ワヤワヤしている場合ですかッ!!上をごらんなさい!!」
一同は黒い空を見上げる。
そこには月の代わりに蒼い光を放つ繭が佇んでいた。
その時、衝撃波を伴いながら蒼い閃光が繭を中心に発生した。
「!」
一同は爆風に圧される。
すると、繭は悍ましいノイズの入り混じった悲鳴のような機械音を放った。
Ooooooooooooo——————————————
一同は思わず顔をしかめる。エリヤは風圧に耐えながら口を開いた。
「グロウルの制御が無い今。彼は”暴走”している。そして都市中の心を刈り取った今!制御できないそれが”何か”として孵化しようとしているんです!!」
「何…?!」
シラヌイは息をのみ、エリヤの言葉に繭を見た。
その繭はボコボコと歪に姿を歪ませる。
そしてメキリと、繭に亀裂が走った。
メキ
メキ
バキィン
瞬く間に繭は崩れ、その中から巨大な影が姿を現す。
「あれは———」
「ローズブレインじゃない、あれはもはやZEXONが融けた。
この世全ての∞の力―————”インフィニティフォースの化身”です!!」
エリヤが叫ぶ。
一同が視線を向ける。
空間に響く轟音。激震する塔。
そこには塔と同等ほどの巨大な
顔のない半透明な—————”蒼い巨人”が現界していた。
呼吸が止まる。
一同が硬直する中、グロウルは叫んだ。
「…!みんな!伏せて―————————」
ドオオオオオオン!!!
「なあ…ッ!?」「ッぐ」
「ああッ!!」「きゃあああ!!」
「が、ッぁあ!!」「ぐうう」
破壊の一撃。破滅の衝撃。
屋上庭園に蒼い巨大な拳が叩きつけられる。振り下ろされたそれは爆風と共にとてつもない衝撃波で一同を襲った。
圧倒的な力の前に、一同は吹き飛ばされ床に叩きつけられる。
「——―ッッ!!」
ルチアは呼吸を詰まらせながらも身を起こそうと床を叩いた。が、全身から力が抜ける。
(ここまで、きてッ)
ルチアは痛みを堪えながら顔を上げる。見れば、他の者も同様に床に倒れ伏していた。
ただ、一人除いては。
「シラ、ヌイ…」
「…決着の時だな」
シラヌイは毅然と立ち上がる。そしてぽつりと、そう呟いた。
◇
削除<デリート>
削除<デリート>
削除<デリート>
不確定要素——”人” 不要 破壊 目標——都市国家”ヘルジャイル”
”蒼い巨人”は都市の心臓<レガリア・コア>を視た。
すると巨人の顔に空洞が生まれる。途端、レガリア・コアの窯から蒼い光が流れるようにその空洞に吸い寄せられていった。
「エリヤッ!」
慌ててアルバはレガリア・コアの傍にいたエリヤの腕を引く。
開いた穴はぶるぶると震えながら、更なるインフィニティフォースを求め吸収していた。
引き倒されたエリヤは地に伏したまま、うめくように叫んだ。
「巨人を、止めなくては。さもなくばこの地は荒野に成り果てます。先に待っているのは、巨人の暴走と…蹂躙!」
「ッけど、体が、うごか、ねえ!!」
思わず舌打ちをする。アルバも、他の者も動けない。
「シラ、ヌイ…ッ!」
ルチアは顔を上げる。シラヌイは蒼い光に照らされながらじっと巨人を見つめていた。
ふと、シラヌイがこちらを向く。
その金色の瞳には光が差し、凛と輝いていた。
「安心しろ、ルチア。俺は負けん。お前が一番よく知っているだろう?」
「…!」
(この瞳に、何度私は救われたことか)
視線が交わる。少しの間をおいて、ルチアは力強く頷いた。
「————ッはい!」
そうしてシラヌイは床を蹴った。
直進するは、巨人の眼前。
愚——
愚————
愚———
愚————————
巨人は軋むように呻く。咆哮が大気を激震させる。
阻むように眼前に現れたシラヌイに、巨人の巨大な手が襲い掛かる。
「はっ!」
捕まれまいとシラヌイは空中で回避する。そしてその巨大な指を軸に回転すると手の甲に着地した。
が、そこへ再び巨大な手のひらが襲い来る。まるでハエを叩き潰すかのように片方の手のひらがシラヌイを圧し潰した。
ドッ!
爆風が発生する。
シラヌイは刀で、巨大な手のひらを受け止めていた。
「がっあ、っあああああああああ!!」
迫る巨大な手のひら、それは理解の範疇を越えた重さである。圧倒的な重圧に、シラヌイは血を吐いて歯を食いしばった。
(まだ、まだだ)
「倒れはせん。後ろ背に守るべきものがあるッ!!!」
金色の輝きは失われていなかった。
シラヌイは叫ぶ。
「教えてやろう。俺”達”を侮ったこと!それがお前の失策だッ!!!」
「そうだ!!僕たちは、負けたりなんて、しないんだ!!」
響いたのはグロウルの声。
気が付けばグロウルは地を這いながら、その髪を一同に結び付けていた。
細い糸を辿るように、それぞれに伸びた髪は蒼く輝いた。
「インフィニティフォースとは人の魂ッ!みんなのフォース<力>、君に届ける!∞の力をッ!!受け取って、シラヌイ—————————!!!」
その瞬間。
一同は、叫んでいた。魂の叫びを。
「DDスター!!」
「グレートファング!!!」
「銀鉄扇ッ!!!」
「雨ノ風切!!!!!」
「砕雷拳!!」
「セブンピストルズ!!」
「ビッグバンッアームド!!!!!!!」
光がシラヌイに収束する。
「お前、たち」
鳴り響くグロウルの音<声>。その音波に彼らから撃ち放たれた力が乗り、シラヌイに集まる。
が、あと少し。
足りない。
「まだだ!!!」
声が聞こえる。
ルチアは膝を立て、体をよろけさせながらも頭上を見上げた。
そして拳を強く握りしめ、身を捻り振りかぶった。
「この手に武器は持てずとも…想いの強さが私の力!この拳ッ!受け取ってシラヌイ―――――――――――――!!!!!」
光の束がまた一つ、シラヌイに向かう。
蒼い巨人の体が軋む。
ぐ、ぐ、とシラヌイを押し潰さんとするその手のひらを押し返す力が増していく。
シラヌイは静かに瞳を閉じた。
(いける。これならば)
———黒鉛刃。
「————な」
ばちり、シラヌイは瞼を開く。
自身の手元、巨大な手のひらを押し返す黒い刀を見上げた。
それは確かな実体をもって、シラヌイを守っていた。
「そうか、お前は、ずっと傍に
―———―—最早、負ける理由など存在せん!!!!」
カッとシラヌイが目を見開く。と、同時に巨大な手は弾かれた。
巨人は巨体を塔と共に振動させ震えた。
無駄
無駄
無駄無駄無駄
未来——確定 ”滅亡”
滅却————スル
巨人の顔の空洞に蒼い光が集まってゆく。
シラヌイは煌々と照らされながら刀を構え魂の限り叫んだ。
「刮目しろ、全ての縁は今ここに集束するッ!!!」
———その海馬、激震させろシラヌイ
否定<デリート>
「魂は記憶を紡ぐ為の導火線にして
否定<デリート>
———私の友、その業火疾走せよ
否定<デリート>
己は数多の希望を照らす赤光の焔!!」
滅ベ人間―———―—終末の鉄槌<ラスト・レイ>
「無限ッ!!!!不知火ノ斬<スピリットブレイズ>——————!!!!」
衝突する光と光。
都市全土にまで至る光の輪。
それは音を置き去りにして、世界を白に染めた。
◇
白い世界。
精神の狭間。
刹那の中でローズブレイン―———の欠片を有したZEXONは垣間見る。
この光を、知っている
「あの時、お前が俺に伝えようとしていた世界。今の俺にはよくわかる。
―——―—さよなら…親父。ずっと…愛してる」
◇
黒い刃が空間を切り裂く。
白く染まった視界が戻る。
いつの間にか、シラヌイは着地していた。
そして刀を回し納刀すると、瞳を閉じ静かに呟いた。
「―——―—その核<コア>討ち取ったぞ」
ゴゴゴゴゴゴ
ドォォォン―——————
突如生まれる爆風。激震する足元。
巨大な蒼い巨人は地響きを立てて沈んでいく。
そしてその体は億千の光の粒となり、霧散していった。
しばらくしてレガリア・コアの前に真っ二つになった鉄塊<ZEXON>がガシャンと落下した。
永久にも感じる一瞬の間。
その後、一同はそれぞれに身を起こす。
呆然と、誰しもが沈黙していた。
その沈黙を破ったのは、歓喜に震えるルチアの声だった。
「——————~~~~~~~~やったあああああああああああああ!!!!」
ぴょんと飛び上がりそうな勢いで空を仰ぎ、ガッツポーズするルチア。
その後ろでシャルルはがっくりと肩を落とした。
「つっかれたぜ…」
が、その隣に立つイッセンが怪訝な顔で呟いた。
「…いいや、まだや」
「「はえ!?」」
ルチアとシャルルが驚いた顔で同時にイッセンを見た。
イッセンはひや汗を流しながらやれやれと首をすくめた。そしてレガリア・コアに歩み寄る。
イッセンが触れるのは板上の巨大な柱。その下部の窯は未だ開け放たれ煌々と蒼い光を放っていた。
「レガリア・コア。これをなんとかせんと、このままでは暴発してまうで」
「なんだってえ!?」
「そ、それはどういう…」
アルバが驚愕する。ルチアはわけもわからず目を回していた。
「はあ…話の通じんやっちゃ…。そこのエリヤ先生はわかるよな」
イッセンの目線がエリヤに向かう。
エリヤはレガリア・コアの前に立ち尽くし、眉を下げて苦笑いしていた。
「インフィニティフォースを出力する勢いに、レガリア・コアが耐えられないのです。先までは出力先にZEXONが居て汲み取っていましたが、今はその受け皿がない。まあレガリア・コアというこの蛇口は破裂せざる負えないでしょうね!」
驚愕する一同にグロウルは申し訳なさそうに言った。
「そうなの…だからこれを何とかして停止させないと暴発してドン!ここにいる僕らは全滅!なんだっ」
「ええ―———————————————ッッ!!」
目を見開くアルバ、ルチア、シャルル。
「どどどどどうすんだよ!!こんなところでお終いなワケねえよなあ!?」
「アタシは…ま、まだ、やりてえ事が…うっ」
「そんなああ~~~~~~!!!」
頭を抱え身をよじるルチア達。
ムラサメははあ、と小さくため息をつくとシラヌイを横目で見た。
「やれやれ、一息もつけないねこりゃ…」
「ふ、そうだな」
ドゴォン!
「!」
レガリア・コアが小爆発する。それは時間はないと告げているかのようだった。
「シラヌイ!」
ルチアは彼の名を呼ぶ。
「ああ」
シラヌイはルチアを見た。
「ここまできた。必ず止める」
「———はい!」
二人は目前の脅威に向き直る。
シラヌイは不敵に笑って言った。
「もうひと仕事しようじゃないか」
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