5話 激戦!KUJOメカ軍団




トンテンカン、トンテンカン

断続的に聞こえる金属音。建物中に響く歯車の音。

工房の中で、鉄の安楽椅子に腰かける少女がいた。


「ほう。馬鹿がぬけぬけと私のところへやってくるじゃと?無礼者には、灸を据えてやらにゃいけんのう。フォーガン、アレを出すぞ」

少女の後ろに控えていたマスクを着けた大男がこたえる。

「アレ…ですか。承知した、クジョー」

大男が姿を消す。

少女は気配が消えたことを確認するとニヤリと笑った。

「なはははっ!おっと。こほん。ッフハハハハハ!せいぜい私を楽しませよ。退屈させるでないぞ小童達よ」











「シンニュウシャ、ハッケン」

「シンニュウシャ、ハッケン—————直ちに排除します」

爆発

爆発

そして爆発

あちこちで吹きすさぶ爆風の中、筒状の顔のないオートマトンは、流暢に言葉を話しながら一同へ向けミサイルを撃つ。

どこへ走っても似たような通路。オートマトンたちの爆撃をかいくぐりながら、ルチアは泣きべそをかいて叫んだ。

「こんなのッ!話が違うじゃないですか———―!!」









———数時間前


「と、いうことで!」

作戦室で、エリヤはにんまりとした笑みを浮かべながらシラヌイに紙を渡す。

「これは?」

その紙には、座標が書いてあった。

「シラヌイとルチアには他の協力者に会いに行ってもらいます!シラヌイ、あなたの武器も用意して貰いました。丸腰では戦えないでしょう?連絡はしてあります。全ては彼女に会えばわかるでしょう」

シラヌイはそれを受け取るとこくりと頷いた。

「何から何までありがとう。感謝してもしきれないな」

「いいえ、私は戦えませんから。感謝するのはこちらの方。だからむしろもっと頼ってください!」

頬をかき照れるエリヤの言葉にアルバが返事をする。

「おうよ!これからもバンバン頼らせてもらうぜ!」

エリヤはやれやれと呆れ顔をした。

「アルバにはいってません」

「がびーん」

アルバを軽くあしらい、エリヤはシラヌイとルチアのほうへ向き直る。

「ともかく、心配はいりません。きまぐれな人ではありますが、ミス・クジョーは話の分かる人ですよ」





———現在


「って話だったのに」

「シンニュウシャ、ハッケン」「殲滅します」

狭い通路に飛び交うミサイル。

走る三人の後方から筒状のオートマトンが後を絶たず追ってきていた。獲物に逃げられ続けるミサイルは、壁に着弾するたび爆発した。

「こんなのッ!話が違うじゃないですかあ———―—!」

爆風に髪が煽られる。アルバが鬼の形相で叫んだ。

「エリヤぁ!どういうことだコレ!」

『あれ~?おっかしいな。快く受けてくれたんですが。何故か警備システムが作動してますね』

アルバの悲痛な叫びに通信機からのん気な笑い声が聞こえた。

ギリ、と歯ぎしりするアルバに背後からミサイルが射出される。

「ぎゃあ!」

シラヌイは小さく息を吐き、ミサイルが暴発する前に素早く裏拳で後方に叩き飛ばす。弾かれたミサイルはアルバの後方で爆発した。

ぱんぱんと、土埃をはらいシラヌイは静かにその様子を見つめた。

「随分と派手な歓迎だ」

「ッぶね~~~~~!」

『まあ彼女は気まぐれですからね。こういうこともあるでしょう』

「ねーよ!気まぐれで俺たちゃ殺されかけるなんて!野蛮!横暴だぜ!」

アルバに続き、ルチアも息を切らし上下する肩を落として抗議した。

「クジョーさんに会う前に死んでしまいますが!?」

『まあそういわずに、ここを突破して武力を補充しない限りは革命軍と戦えませんよ?あ、革命軍というのはローズブレイン御一行のことです!」

「「聞いてねえ!」ません!」

『アハハ。さあ頑張りなさい!応援しておりますので!ふぁいお~!』

通信機の向こう側からどどん、パフパフと音が聞こえる。アルバはわなわなと顔を顰めた。

「ソファーでティーをたしなむ姿が目に浮かぶぜ~!後で覚えてろよ」

「量は多いが一体一体は大したことない。うろたえるな」

そう言うと、シラヌイは床を蹴る。

前方にはオートマトン。シラヌイは瞬く間に、飛び込んだ勢いのままオートマトンの首(であろう部分)をねじり落していた。

「確実につぶしていけば———」

火花散る切断面。そこに迷いなく手を突っ込むと内部のチューブを掴み、引きずり出す。

そしてそれを勢いよく振り回すと

「いいだけの—————事ッ!」

前方の複数のオートマトンへ投げつけた。


「ッルチア!伏せろ!」

慌てながらも咄嗟にアルバはルチアに覆いかぶさる。すると前方のオートマトン達が射出したミサイルが、投げつけられたオートマトンに着弾した。


―—————————————キン


瞬間。音が消える。

と、途端に通路内に爆発が連鎖した。爆音が耳を鳴らし、空間を真っ白にするほどの光を放つ。

とてつもない爆風と熱気。

「「ぎゃああああ!!」」

ルチアとアルバの絶叫が通路に響き渡った。









しばらくして。

「わ、ははは…」

アルバは力なく笑う。通路は焼け焦げ、煙が立っていた。

爆発が収まったのを確認すると、シラヌイは物陰から顔を出しすっくと立ち上がった。

「よし、道は開けた。ルチア、アルバいくぞ」

顔を引きつらせ、放心する二人をよそにシラヌイは走り出す。

ぷすぷすと若干髪を焦がしながら、ルチアとアルバは顔を見合わせると苦笑いした。

「死ぬかと、おもっ、た」

「シラヌイ、お前ほんとバケモンだぜ…」









研究所内を歩く。

迷路のような通路を進んでいくうち、天上の高い大きく開けた部屋に出た。5階分程はあろうかという高い壁にダンスホールほど広い空間。あたりを見渡すがオートマトンが追ってくる気配はない。ふむ、とシラヌイは一息ついた。

「大分進んできたな」

「メカ軍団の波が引きましたね…」

「おい、あれ!」

するとアルバが前方を指さす。

そこにはマスクを着けた褐色の大男が立っていた。

大男は仰々しくお辞儀をした。

「よくぞここまでたどり着いた。歓迎しよう侵入者達。小生の名はフォーガン。博士に仕える不肖の男である」

ざ、とシラヌイが前に出る。

「シラヌイだ。エリヤの紹介でクジョー博士に会いに来た」

マスクの男。フォーガンはシラヌイを一瞥する。

「いい目をしているな、小僧」

襲ってこない様子に胸を撫でおろすルチア。安心し、フォーガンに歩み寄る。

「ほっ、やっとまともに話ができそうな人が出てきた…。フォーガンさん誤解なんです~私たちは侵入者ではなくてですね…」

「喝ッ!!!」

「へ?」

その時、フォーガンの全身から覇気が放たれた。

瞬間、風が巻き起こりルチアはそのままの姿勢で数歩分後ろに押し離される。質量のある気迫にびりびりと肌が粟立った。

「あ、え…」

言葉を紡ごうと開いた口が塞がらないまま、ルチアは予想外の事態に硬直した。

「この先で博士が待っている。だがその前に」

ガキン!

フォーガンは拳を突合せる。火花が散った。

「その力、試させてもらうッ!この不肖フォーガン———―—参る!」

「どえ——―ッこの人もか―——!!」

ルチアが叫んだ瞬間、風が舞い、フォーガンの拳から衝撃波が放たれた。

「破ァッ!!!」

「!」

咄嗟にシラヌイは腕をクロスし衝撃派を受ける。びりびりと筋肉が震えた。

その背からアルバが飛び出した。

「くらい、やがれッ!」

その手にはどこからか調達した鉄パイプが握られていた。

上空から重力をのせて鉄パイプをフォーガンに振り下ろす。が、フォーガンは最小の動きでそれを回避するとアルバの腕を掴んだ。

「えっ、ちょ」

そして、大きく振りかぶり————後方へと投げつけた。

「む」

その先にはシラヌイの姿。背後、隙をついて懐に入ろうと駆けだしていたシラヌイは目を丸くし

ドン!

投げられたアルバごと後方に吹き飛んでいった。

「シラヌイ!アルバ!」

ルチアが叫ぶ。

アルバの重さに受け身がとれず、シラヌイの体はそのまま壁に叩きつけられた。

「ッ」

肺から息が吐きだされる。シラヌイによって衝撃を緩和されていたのか、いくらか無事なアルバがフォーガンを睨んだ。

「て、めえ…!」

アルバが睨んだ先。フォーガンは気迫をまといながら、拳法の構えをし覇気を集中させている。次の一手に力を溜めているかのように。

(これは、わりと、やべーやつ!)

アルバの首筋を冷汗が伝う。隣でシラヌイが体を起こした。

「拳法。格闘家か」

シラヌイの言葉にフォーガンのマスク、その四ツ目が笑った気がした。

「我が身は鋼なりて。この四肢が放つ覇道術、受け止めきれるかな」

「この一撃の重さ、半端じゃねえぞ!本物だ。まじでその皮膚ン下、鉄でも入ってんのか!?」

アルバの言葉に、シラヌイの瞳が鋭くなる。

「鍛え上げられた肉体。そして洗練された気迫、技が一撃一撃の威力を増している。…腕が鳴るというもの」

応えるように、ギチ、と拳を握りしめフォーガンは口を開く。

「元傭兵である小生は博士に拾われ命を取り止めた。なれば引かぬ!打つ!博士に会いたくば、この壁を越えて行け!」

そう告げるや否や、フォーガンの全身からこれまで以上の覇気が発せられた。

「アルバ、来るぞ!」

「ッああ!」

シラヌイとアルバが構える。と、その脇からルチアが飛び出した。

「っっわ、わたしだって!」

「馬鹿、出るなルチア!」

アルバの声を無視して、ルチアは銃口をフォーガンに向け弾丸を放つ。

銃弾を弾くフォーガン。だがその様子にシラヌイは眉を潜めた。

銃弾を弾くと即座に床を蹴り、フォーガンはルチアに接敵する。アルバがルチアの元へ走るが間に合わない。フォーガンは拳を振りかぶり風圧を撃った。

フォーガンの攻撃を回避しようとルチアが後ずさる。が、その時。

「ぎゃあ!」

ルチアはつるりと床に足を滑らせ、転倒した。咄嗟にフォーガンはルチアを支える。

「おっとと。大丈夫ですかなお嬢さん」

「え?」

「隙アリィ!」

駆けだしていたアルバはそのままフォーガンの背後に回り、その頭に向けていつの間にか拾っていた瓦礫を振り下ろした。

「待てアルバ!」

「え?」

制止の声に目を丸くするアルバ。声の方を向いた時、シラヌイの拳が飛んできた。手に持っている瓦礫目掛けて。

ドゴォン!

横一直線に殴り飛ばされる瓦礫。それを見送りながらアルバは声を荒げた。

「———————っぶね!!何だよ!」

フォーガンは訝し気にシラヌイを見る。

「どういうつもりだ」

「あんたこそどういうつもりだ?」

「シラヌイ…?」

シラヌイの意外な返しにフォーガンに丁重に支えられたルチアは目を丸くする。シラヌイは気に留めずに続ける。

「”まるで戦意がない”」

「…ッ」

「え?何?どゆこと?」

「はえ?」

話について行けないアルバとルチアはキョロキョロとフォーガンとシラヌイを交互に見た。

「その洗練された拳法、それは熟練のものだ。だが明らかに戸惑いが見える。特にルチアに対してそうだ。もしや女だからといって手加減しているのか?」

「いいえ!小生は本気ですぞ!…はっ」

少しの沈黙。

「あっ、いえ。な、なめるな小僧!まだまだこれからよ!」

ささ、と丁寧にルチアを起こすとフォーガンは三人と距離をとり拳を構えた。

「あー…、なるほどね…、そういう」

アルバがぽりぽりと頭をかいた。ルチアは渋い表情を、シラヌイはやれやれと目を閉じている。

「何だお前たちその目は!来い、我が覇動術の神髄その目にお見せして」


『もうよい!そこまでじゃ!』

「そ、その声はッ」


声が響いたと同時にアルバの足元、いやフロア全体が振動する。

「な、なんだあ!?」

見れば中央の床にあったハッチが開いてゆく。重々しい音と共に、フロアを激震させながら現れる影。それは瞬く間に一同を越え、フロアの床に大きな、とても大きな影を落としていく。

そこに現れたのは——————巨大人型起動兵器だった。

それもツイテールの。

巨大なマシンはずびしいと拳を天井に突き上げ咆哮する。



『待たせたのう!みんなのアイドルッ、クジョー博士、ビッグに登場じゃあ!』





……………。

少しの沈黙。

部屋に大きく影を落とすそれに、皆口を開けて見上げる。

アルバはわなわなと口を振るわせて言った。

「はい、いくぞ~、せーの」

「「「で、でか――――———い!!」」」


のけぞり目を丸くしている三人をよそにフォーガンは巨大人型起動兵器、通称”メカクジョー”に駆け寄る。

「お待ちください博士!予定が違いますぞ!小生が彼らを試したのち、ついに博士とご対面!くるしゅうない~!そういう話だったではないですか!」

フォーガンの声にメカクジョーは耳(であろう部分)をほじる。気だるげな様子で。

『あー、そうだったかの?』

聞く耳の持たなさそうな巨大なマシンを前にフォーガンは膝をつき嘆いた。

「そもそもなぜ戦う必要が!?気まぐれにも程度というものがありますぞ!いやこれは博士を止められなかった小生の不徳!エリヤ先生、皆々様!まことに申し訳ありませぬ…ッ(泣)!」

しくしくと並々の涙を流すフォーガン。その姿に三人は同情した。

(この人絶対いい人だ)

(いいやつだな)

(いいやつだわコイツ)

無念にも、フォーガンの嘆きは届かない。メカクジョーは背を逸らせて高らかに笑った。

『ナハハ!よいではないか!はじめこそ少しからかってやるくらいに思っておったが、何か見てたら楽しくなってきての!私も暴れさせてもらう事にしたぞい!』

嬉々とした声と共にメカクジョーは、がしょーんと巨大な手でピースをする。

フォーガンはうなだれた体を起こすとシラヌイ達に言った。

「もうこうなっては博士は止まりませぬ。心苦しいのですがお相手をお願いできますか!小生は少しここを離れます!」

そういうと煙玉を床に投げつけ、もくもくと煙が立ち込める中一目散に姿を消した。

「あっ、おいふざけんなお前だけずるいぞ!」

慌ててアルバが煙を散らすが姿はない。シラヌイは僅かに口の端を上げるとメカクジョーを見上げて言った。

「いいだろう。存分に楽しませてもらうまでだ」

「ずぎゃん!!能天気すぎるッ。ん~~やるしか、ないのですね!?」

三人はメカクジョーを見上げる。それにしても大きい。

『ぴぴぴ!目標確認!ターゲットロック!エネルギーチャージ完了じゃ!』

巨大マシンは拳を胸の前に突き合せる。

『さあ、死ぬ気で気張れよ、若人。メカクジョ—————出るぞ!!』

そう言葉にした瞬間、マシンの目がビカッと煌めいた。

「「「え?」」」


『L★E★Dビ———————ム!!』


目も眩む閃光。

フロアが真っ白に染まる。その次の瞬間、マシンの目から放たれたその光線は三人の横を勢いよく焼き払った。

ジュゴォ!!

床から壁、天井まで、光線の熱で二本の太い焼け跡ができる。

じゅううと音を立てながら、熱され赤く融解する床、壁、天井、ルチアは思わず悲鳴を上げた。

「いきなり大技うってきた———!?」

「こっち生身だぞ!マジで殺す気か!!」

被せて声を荒げるアルバ。が、メカクジョーはそれらを無視。間髪入れず、オールレンジ兵器をカタパルトから射出した。

『ゆけ!ファンネル!』

三角柱の小型起動兵器が数体滑空する。それらは個々に動き、三人に襲い掛かった。

「あっ、これ死んだわ」

「諦めないで!今盾がないと本気でやばいですから!」

「おっ、ルチアちゃん今盾っつったな?俺の事か?なあ、俺の事なんだろ」

「うるさい!集中してるんです私は」

アルバの背に隠れ、小型兵器ファンネルを狙うルチア。迷いのない銃弾は正確にそのマシンを阻む。

『なはははは!守っているだけでは私には勝てんぞ!』

「ふむ、さすがにでかいな。どうしたものか」

シラヌイは小型兵器の光線を避けながら顎に手を当て唸る。

「先ほどの大技はどうやらエネルギーを充填する必要があるようだ。だから今すぐには撃てないとして、だ。チャージが完了するまでに何とかしなければならん」

「さっきはたまたまズレてくれたから助かったが、次また撃たれたらやべーぞ!」

ルチアを背に応戦するアルバが抗議する。被せるようにルチアが叫んだ。

「しかしあの装甲です。飛んでる小さい方は何とかなっても、今の私達では本体に通用しません!」

その言葉にメカクジョーは高らかに笑った。

『それもそのはずじゃあ。この私が造ったんだぞ?銃弾も跳ね返すカンペキな装甲、それでいてこの私クリソツなきゅ~となフォルム、ううんクジョーは天才よな!』

「気持ちいいくらいの自画自賛!苛立ちを通り越して寧ろうらやましいわ!」

「このままでは本当にやばいです!どうにかして突破口を…どうすれば…ああ考えがまとまらないッ」

ルチアの頬を冷汗が伝った。そこに冷たい声が響き渡る。

『飛び回るだけか?期待外れじゃな。ならば用はない。失せよ』

はあ、とため息が聞こえた。

すると巨大マシンが拳を振り上げる。拳の向かう先にはシラヌイがいた。

『その程度で国に反逆しようなどど、笑い話にもならんわ』

隕石のような重量級の拳が、風をきってシラヌイに向かう。シラヌイは見つめたまま避けない。

ルチアは叫んだ。

「避けて、シラヌイ———————!!」



「轟け―——<桜雷鉄砕破>ッッ!!」




その時、突如横から衝撃波が放たれた。

『む!?』

雷撃をまとった衝撃波は巨大マシン、メカクジョーの巨体を揺らす。その揺れは拳の照準を僅かにずらし、マシンの巨大な拳はシラヌイの頬をかすめ―――床にめり込んだ。

ドッッ

着拳した瞬間床に亀裂が走り、鉄の拳を中心にクレーターができる。爆風にシラヌイの髪が煽られた。

「ッ」

ルチアとアルバは吹き飛ばされまいと地面を踏みしめる。そして顔を上げると衝撃波の発生源を辿った。そこには煙を立てる拳を握りしめたフォーガンが立っていた。

「シラヌイ!これを!」

フォーガンが叫ぶ、するとシラヌイにむけて何かを投げた。

シラヌイは一目もくれず腕を上げその何かを受け取る。

それは幾重にも錠をかけられた”黒い刀”だった。

「クジョーが用意した、貴方へ渡すはずだった武器です。こんな形で渡すことになるとは思わなんだが…ッこの状況を打開するには——これしかあるまい!」

その言葉にルチアははっと表情をほころばせた。

「しかしその剣には問題が!”刀身が抜けない”のです!」

「はぁあ!?んじゃただの棒切れじゃねえか!」

「ええ否定はできない。そもそもこれはクジョーがかつて軍から勝手に拝借したもの。彼女が製造したものではないのです!故にこの錠がいかに解除されるかは誰も分からなかった!そんな剣を、クジョーはシラヌイに選んだのです!」

シラヌイは掴んだ刀を見る。黒く光るそれは静かに手の内に在った。

「クジョーは気まぐれな御仁だ。だが嘘、偽りは決して言わん!彼女が貴方にこの剣を選んだ。ならばそれには理由があるはず!信じてくだされ。その剣を抜くのはおそらく、貴方なのです!」

しばらく衝撃に停止していた巨大マシン、その瞳に再び光がやどる。

『ムム、よくもやってくれたの。話は終わったか?んじゃ、トドメじゃ』

起動音を立て、床にめり込んだ拳が引き上げられる。そして再び胸の前に両拳を突き合せた。

アルバはさあと血の気が引くのを感じた。

「さっきのでかいビーム砲だ…チャージしてやがったのか!」

『さあ充填満タンッ!死ぬがよい!くらえッ<再・L★E★Dビ——————ム>!!!』

メカクジョーの目がカッと光る。

光線が放たれ―———————



その刹那

メカクジョーの横を黒い風が走った。



来るであろう衝撃に、思わず目を閉じてたルチアはゆっくりと瞼を上げる。そこには静止しているメカクジョーの姿。

メカクジョーから光線が放たれることはなく、巨大マシンはバチバチと放電していた。

「な」

動きを止めたメカクジョー。その足元後方には、シラヌイの背中があった。そしてその手には黒く光る”抜き身の刀身”。

ヒュ、と刀身にまとった電気を払うと、シラヌイは錠の外れた鞘に切っ先をあて——

「感謝する。クジョー、あんたの眼は本物だ。確かにこの剣、受け取ったぞ」

———静かに呟いた。



「<黒鉛刃・抜刀>」



シラヌイが鞘に刀身を納めた、その瞬間




—————閃光と共に、巨大マシンは轟音を響かせて爆発した。














「ナハハ!実に楽しませてもらったぞ!」

「誠にかたじけない…」

大きい図体を丸めて申し訳なさそうに小さくなるフォーガン。

その傍らには、髪を爆発させたまま、背中を逸らせて豪快に笑っている半焦げの少女、クジョー=ヱ=ユナ博士の姿があった。


「笑い事ですかあ————!」

思わず半べそをかきながらルチアは抗議する。アルバはその場にうなだれながら胡坐をかいていた。

「まじで勘弁してくれ…寿命が半世紀ほど縮んだ…」

「いいや、実に身になる戦いだった。クジョー博士、感謝する」

ただ一人、シラヌイは嬉々としてクジョーに刀を突きだした。満足そうにクジョーは頷く。

「うむ!私が見込んだだけはあるの♪」

と、そこで通信機にノイズが走る。ザ、ザザと音がした後、聞きなれたのん気な声が聞こえてくる。

『————っと!やほ~聞こえますか?』

「あっエリヤてめえ何してやがった!?」

『はあ、やっとつながった…って何ですかアルバそんなに声を荒げて。あっ満身創痍。クジョー!さてはまた派手にやらかしましたね?』

咎めるようなエリヤの声に、ナハハ!とクジョーは豪快に笑った。

「なあに、ちょこっと試しただけじゃ!刀は抜けたし皆無事!万事オッケーじゃろ!」

通信機の向こうからため息が聞こえる。

『そんなことだろうとは思いましたが、一応重要人物なんです。手加減というものを——あっ、ちょっと、待ちなさいまだ話は——』

「えい」

ポチ、とクジョーは通信機を切断した。そしててへ、と拳をこつんと頭にあてた。

「細かい奴はこうじゃ♪」

(厄介な人が増えた…)

ルチアは思わず頭を押さえた。

「クジョー改めてよろしく頼む。共に、戦ってくれ」

シラヌイが一歩踏み出し手を差し出す。クジョーはその手を取って力をこめた。

「うむ、無論じゃ。シラヌイよ、存分に力をふるうがいい。私は全力でバックアップしよう。そのために立ち上がったのじゃからな」

「ああ、ありがとう」

握手を交わす二人。その様子にフォーガンはハンカチをマスクにあてていた。四ツ目のレンズからほろりと涙が流れる。

「よく泣くなこいつ…」

アルバの言葉は無視し、フォーガンは嬉しそうにほほ笑んだ。

「うっ、良かった…」

「うむ!と、まあ一件落着じゃな!だがうちとて秘蔵のカタナをくれてやったのじゃ、少しくらい見返りがあってもよいよなあ?」

握手を交わしたままのシラヌイの手をにぎにぎと揉むクジョー。首をかしげながら、されるがままにシラヌイは答えた。

「うん?そうだな。構わん。俺にできることであればなんでも」

すると、クジョーは二ヨリと笑う。

「脱げ」

「は?」

きょとんと目を丸くするシラヌイ。その間に咄嗟にルチアが割って入った。

「ま、ままままま待ってください。え?今なんて、ああいや言わなくていい」

「さあ脱げ!今すぐにじゃ!」

「な、ナンデ―———―!?」

オーバーぎみのリアクションでルチアがのけぞる。クジョーを見ればその目はキラキラ、いやギラギラと燃えていた。

「知りたい!否、知らねばならぬ!私に抜けなかったカタナが何故シラヌイにぬけたのか!?解明せねば!これは博士としてのサガ!カイボーさせろ!今!すぐにじゃ!脱げ―———い!」

「あ、ああ、わかった」

鬼気迫るクジョーに、疑問符を浮かべながらシラヌイは思わず頷く。

「まてや——!!」

ルチアが激昂する。

「いやいやいや!わかったじゃないでしょ!?流されないで!せめて二人きりの時に!ここでは、その…ってそうじゃない!ぐああフォーガンさん!助けて!」

ばっと勢いよくルチアはフォーガンの方を振り向き、助けを求める。フォーガンは微笑まし気に涙ぐんでいた。

「ははは、すぐなんでも解剖したがる。博士の悪いクセですぞっ」

「甘やかしてんじゃないですよ!!」

これでもかと言わんばかりに眉間を黒くさせるルチア。見れば、アルバは両手を頭の後ろに組んで目を逸らし、いつのまにか距離をとっていた。

「おっと俺をみるなよ、面倒なのは御免だぜ」

通信機からはころころと笑い声が聞こえる。

『ふふ、賑やかになりますね』



わなわなとふるえる唇。

行き場をうしなった手を握りしめ、ルチアは勢いよく空を仰いだ。

「滅茶苦茶だこの人たち—————————!!」



←BACK NEXT→

0コメント

  • 1000 / 1000